宮崎県は椎葉村まで行ってきました。
椎葉村は、宮崎県と熊本県の県境、九州山地の中央に位置し、宮崎空港、熊本空港、鹿児島空港のいずれからも、車で2時間はかかるという、奥深い山村です。
日本3大秘境の一つに数えられ、世界農業遺産に選定された焼き畑農業が、我が国では唯一観光でなく暮らしの営みとして今もつづけられている、稀有な村です。
平家の落人が築いたとされる隠里で、犬を使った猪鹿猟や、集落ごとに異なる神楽などの文化が良く伝承され、柳田國男の民俗学発祥の地(「後狩詞記」の著作あり)とも言われる、美しい村です。
今回、仕事のつながりで紹介してくださった方がいて、椎葉村のイノシシ猟を見学することができました。
<注意!>以下、捕獲されたイノシシやその解体の様子が多く登場しますので、苦手な方は読み進めないようにしてください。
イノシシ猟の朝はゆっくりでした。朝8:00、犬を軽トラに積んで出発します。一度の猟に使用する犬たちは5~6頭だそうです。
椎葉村のイノシシ猟は、犬を連れたセコが山に分け入り、潜んでいるイノシシを犬が見つけると、吠え立てる犬とともにセコも走って山の上方から下方へとイノシシを追い出し、走り出たイノシシを沢筋などで待ち構えたマブシが撃ち取る巻き狩りでした。
今回、お世話になったのは、イノシシよりも早く走るという超人、I兄弟のチームでしたが、KJもセコについて必死で走りましたよ。山で汗だくになり具合が悪くなるほど走ったのは滅多にないことだそうです。
人と犬との見事な連携プレー。
どちらが欠けてもイノシシをとることはできません。
また、シカと異なり追い詰められたイノシシは反撃してくるので、その牙にやられて負傷したり命を落としてしまう犬もいるそうです。
とれたイノシシは全身丸ごと軽トラに積んで、解体作業を行う家まで持ち帰ります。
この日は見事、数時間で2頭のイノシシを仕留めることができました。
この冬はイノシシが少ないこと、また、私たちがイノシシ猟を見学できたのがわずか半日でしかなかったことを思えば、目の前で、走るイノシシ、それに射当てる見事な射撃、逃げるイノシシを吠え止め・咬み止めする犬たちの活躍を見ることができたのは、非常に幸運なことでした。こんなことは滅多に無いと、何度も念押しされました。こうした幸運に恵まれたのは、この日がイノシシ神に踊りを奉納する、O地区の神楽の日だったこともあるかもしれません。
2ラウンドを全力で走ってイノシシと戦った犬たちは、顔を血に染め真っ赤にしながら、もうへとへとです。幸い、大きな怪我はありませんでした。
イノシシがとれれば、短く切った植物(何の植物かは不明)の茎に切り込みを入れ、イノシシの毛をはさんで地面に刺し、山の神に捧げてお礼を言います。
山の神は、地区ごとに何か所かにおられるようです。
昔は、イノシシがとれたことを皆に知らせるために、号砲も鳴らしたそうです。
椎葉村では、イノシシの肉は皮ごと食べるということで、解体は体表の毛をバーナーで焼くことから始まります。
焼けこげた毛を、竹を細く割ってUの字型に曲げた、手製の道具を使ってこそぎ落として行きます。
さらに、ナイフをつかってすみずみまでキレイにこげをけずり取ります。
そしてタワシで全身を水洗いしたら、いよいよ解体です。
解体には背割りと腹割りがありますが、椎葉村では腹割りでした。
内臓(食べるのかどうかは分かりません)を除去した後に、肉と骨の間にナイフを入れる形で、あばら骨を外し、骨盤、大腿骨、上腕骨、肩甲骨も外してきます。肉から骨を外していく感じ。
皮ごと肉を食べるのが椎葉流、ならではの必然だと思いますが、皮をはいでしまってから、骨から肉をはずしていく私たちのエゾシカ解体の方法とは全く違って、とても珍しかったです。
このように、ロースもモモも、全ての肉が皮についた状態で、 いわばイノシシの開きができあがります。美しく見事な解体でした。
そこからは、秤で重さを計量しながら、肉を小分けにしていきます。どの小分けにも皮と赤身の肉とたっぷりの脂がついた肉が含まれるよう心を配った、ていねいな作業でした。この日の肉は、神楽で集まったO地区のみなさんに配られたのではないかと推察されます。私たちも、ありがたく分配をいただきました。
I兄弟はイノシシ狩りの名人。ふと見上げると解体小屋の天井の梁には、大きな牙のついた雄イノシシのあごの骨=トロフィーが、所狭しとびっしり掛けられていました。
解体してすぐにいただくイノシシ肉の美味しかったこと!
皮のついた脂ごといただくのが椎葉流ですが、皮は確かに固いものの噛みしめるほどに味わい深く、分厚い脂には多少独特の芳香臭を感じるものの決して嫌な臭いではなく、焼けばしゃりしゃりした歯ごたえがなんとも不思議な食感でした。
これほどゴツイ脂でも、食べ飽きることも胃もたれすることもなく、どんどんいけてしまいます。
良く働いた犬たちは、それぞれのつなぎ場所に戻され、まったりと昼寝をしています。
自家繁殖の雑種犬ですが、とても優秀なので他の町村からも引き合いが多いそうですよ。
なにしろ、山でイノシシを見つけ、追い出し、追跡して、吠え止め・咬み止めする、犬たちの運動量は相当なものになりますから、一日中猟をする場合、犬とセコのチームは午前と午後で交代するそうです。
でも、この犬たちにイノシシ肉が当たることはほとんど無いのだと。
椎葉村では人間が、イノシシを、骨まで炊いてくだいて食べてしまうからだそうです。ここでの狩猟はまさに食料調達です。ブラボー!
こちらは、犬たちのエースとその子犬。子犬は現在4か月ですが、この冬の内にもイノシシ猟デビューさせるそうです。将来はエースになれるよう、怪我無く大きくなるのだよ!
エースは先日、イノシシ猟の最中に目を負傷して療養中でした。
こちらは、今回泊めていただいた、中竹旅館での一コマ。イノシシ肉の食べ方としては、皮のついたまま炭火で焼くのが一番美味しいと教わりましたが、椎葉村では特産のおそばに入れたり、野菜と煮つけたり、さまざまな食べ方がされているようです。
考えてみれば、隣の地区に行くにも1時間はかかる険しい山間の集落で、かつては牛や豚を飼育したり他の町に買い物にいくことも容易ではなかったでしょう。
お肉と言えばイノシシ肉(椎葉村にはシカもいますが、エゾシカとは異なり本州以南のシカはイノシシに比べて味が劣るので)であったことにも頷けます。
こちらはヤマメ。ただし天然自然のものはすっかり減ってしまったそうです。
中竹旅館の主は、ハンターです。今回は本当にお世話になりました。
どうもありがとうございました。
さて、ハンターの方はお気づきだと思いますが、椎葉村では猟の道具も北海道と大きく異なりました。まず、足元は地下足袋。それも、スパイク付きです。KJによると、私たちが使うスパイク長靴では重すぎて、犬といっしょに山の中を走り回るには不適だと。今後に向けて、スパイク地下足袋の購入を検討しているとか、いないとか(笑)
そして、使用する銃は、20番のスラグ銃でした。スコープは付いていません。
平筒でオープンで、走るイノシシを撃って当てるのだから、その腕は!素晴らしい!の一言です。
最後に、実はKJのお祖母ちゃんは、もう亡くなりましたが椎葉村の生まれです。
今はおつきあいも無くなっていて、所在地の情報がほとんど無く、難儀しましたが、村内を尋ね歩いてついに探し当てることができました。
今回、目の前でイノシシがとれたのも、実家を探し当てることができたのも、お祖母ちゃんの導きであったのかもしれません。
初めてなのに、どこか懐かしい気がする椎葉村で、人生初のイノシシ猟見学を満喫し、KJのルーツを訪ねるという希望もかないました。
北海道からの移動は丸一日がかり。とても遠い椎葉村ですが、また来たいし、その時は、焼き畑の火入れも見たいし、夜通し朝まで踊るという神楽も是非見たい。
そんなことをしみじみ思いながら、椎葉村を後にしました。
イノシシ年の最後を締めくくるにふさわしい、良い旅でした。
<オマケ>北海道への帰路は熊本を経由したので、名物の馬肉料理と熊本ラーメンも楽しむことができました。
みなさま、本年はたいへんお世話になりました。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします。
どうぞ、良いお年を!
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